【「袴田事件」第12回再審公判】
本日はちょうど10年前、ここ静岡地裁で村山元裁判長から袴田巌さんの再審開始決定が出され、そしてこれ以上の拘置は「耐え難いほど正義に反する」として半世紀ぶりに袴田巌さんが東京拘置所から釈放された日です。その村山元裁判長は、今は弁護士として再審法改正にも携わっておられます。まさか10年後まで裁判が長引いて、そこにご自分が弁護士として再審法改正を訴えるために立つことになるとは夢にも思われなかったことでしょう。
本日静岡地裁前には、再審公判前に日弁連の小林元治会長や複数の弁護士たちが集まり、裁判傍聴に訪れた人や道行く人々に「1日も早く再審法改正を
」とその必要性を呼びかけておられました。

裁判前の前段集会を見届けてから、今回2回目に傍聴券が当たった私は法廷に。そして、昨日に続いて本日は検察官から弁護側の鑑定人の北海道大学物理化学教授の石森浩一郎氏に問いかけられた質問の数々は、重箱の隅を突くような問いかけを執拗に繰り返され、同じことを言葉を変えて執拗に繰り返される質問に、時に裁判長から忠告が出ましたが、検察官は止めずに、ここまできても時間稼ぎのような尋問でした。しかしプロとしての鑑定人石森氏は淡々としかも誠実に、1年以上みそタンクに入っていた場合、化学反応が進み、血液の赤みが残ることはない、と述べられました。何時間にも渡る質問に真摯に答えておられました。
午後からは検察側鑑定人と弁護側の鑑定人が並んで質問審理がされましたが、弁護側鑑定人の質の高さは素人目に見ても検察側の鑑定人を遥かに上回るものでした。
今月25日(月)からの再審公判は3日間も続いて、専門尋問が続いた裁判で、袴田秀子さんはいつものように凛と座っておられていましたが、さすがに91歳になるお顔には疲労の色が見られました。本当に酷な裁判闘争です。又、当の袴田巌さんは、長年死刑囚として勾留された末の拘禁症状のため、出廷することは免除されましたが、88歳のお年を感じさせるこの頃です。
裁判後の記者会見には、3人の弁護側鑑定人も座られて、前出の石森教授の他に、旭川医科大学の共に法医学の清水恵子教授、奥田勝博助教が並び、それぞれ違った立場の見地から誠実に語られて、刑事法廷にプロの化学者が証言に立ち真実への光を当てることの必要性をまざまざと現してくださいました。
本日はプロの皆さんの素晴らしいご報告が聞けて本当に良かったと思います。しかし、袴田事件がここまで長引いたのは、第1次再審で証拠開示がされなかったため、又第2次再審は再審開始決定がされたのに検察が抗告してしまったためです。
再審公判の記者会見に続いて、再審法改正実現本部本部長代行の鴨志田弁護士が変わって座り、「再審弁護士になるということは終身刑になったのと変わらないこと」とかつて先輩弁護士から伝えられたことが語られて、袴田事件のみならず布川事件、名張事件、日野町事件、住吉事件、などえん罪の被害者や弁護士たちが背負わなくてはならない果てしなく長い再審裁判の酷さが語られました。
えん罪被害の弁護人は公判を闘うことに精根を使い果たして、その過程でどれほど再審法改正の必要性を痛感しても、再審法改正にまで繋がらなかったこともあるようです。以前、布川事件の櫻井昌司さんが国会で「どれだけえん罪に苦しんだら、再審法の改正に動いてくださるんでしょうか!」と訴えられた言葉が忘れられません。
袴田さんの無罪を勝ち取ることは当然ですが、同じような犠牲者を生み出さないために、今こそ世論の声を高めて再審法改正実現のための後押しをしていただくことが本当に必要です。(溜)